『アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案要綱』

http://www.cas.go.jp/jp/houan/198.html
http://www.cas.go.jp/jp/houan/190215/siryou2.pdf

第一 総則

一 目的
この法律は、日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化(以下「アイヌの伝統等」という。)が置かれている状況並びに近年における先住民族をめぐる国際情勢に鑑み、アイヌ施策の推進に関し、基本理念、国等の責務、政府による基本方針の策定、民族共生象徴空間構成施設の管理に関する措置、市町村(特別区を含む。以下同じ。)によるアイヌ施策推進地域計画の作成及びその内閣総理大臣による認定、当該認定を受けたアイヌ施策推進地域計画に基づく事業に対する特別の措置、アイヌ政策推進本部の設置等について定めることにより、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とすること。(第一条関係)

二 定義
1 この法律において「アイヌ文化」とは、アイヌ語並びにアイヌにおいて継承されてきた生活様式、音楽、舞踊、工芸その他の文化的所産及びこれらから発展した文化的所産をいうものとすること。
2 この法律において「アイヌ施策」とは、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発(以下「アイヌ文化の振興等」という。)並びにアイヌの人々が民族としての誇りを持って生活するためのアイヌ文化の振興等に資する環境の整備に関する施策をいうものとすること。
3 この法律において「民族共生象徴空間構成施設」とは、民族共生象徴空間(アイヌ文化の振興等の拠点として国土交通省令・文部科学省令で定める場所に整備される行政財産をいう。)を構成する一定の施設(その敷地を含む。)をいうものとすること。(第二条関係)

三 基本理念
1 アイヌ施策の推進は、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重されるよう、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統等並びに我が国を含む国際社会において重要な課題である多様な民族の共生及び多様な文化の発展についての国民の理解を深めることを旨として、行われなければならないものとすること。
2 アイヌ施策の推進は、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができるよう、アイヌの人々の自発的意思の尊重に配慮しつつ、行われなければならないものとすること。
3 アイヌ施策の推進は、国、地方公共団体その他の関係する者の相互の密接な連携を図りつつ、アイヌの人々が北海道のみならず全国において生活していることを踏まえて全国的な視点に立って行われなければならないものとすること。
4 何人も、アイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないものとすること。
(第三条及び第四条関係)

四 国及び地方公共団体の責務
1 国及び地方公共団体は、三に定める基本理念にのっとり、アイヌ施策を策定し、及び実施する責務を有するものとすること。
2 国及び地方公共団体は、アイヌ文化を継承する者の育成について適切な措置を講ずるよう努めなければならないものとすること。
3 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動その他の活動を通じて、アイヌに関し、国民の理解を深めるよう努めなければならないものとすること。
4 国は、アイヌ文化の振興等に資する調査研究を推進するよう努めるとともに、地方公共団体が実施するアイヌ施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずるよう努めなければならないものとすること。(第五条関係)

五 国民の努力
国民は、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及びその誇りが尊重される社会の実現に寄与するよう努めるものとすること。
(第六条関係)

第二 基本方針等
一 基本方針
1 政府は、アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならないものとすること。
2 基本方針には、次に掲げる事項を定めるものとすること。
(1) アイヌ施策の意義及び目標に関する事項
(2) 政府が実施すべきアイヌ施策に関する基本的な方針
(3) 民族共生象徴空間構成施設の管理に関する基本的な事項
(4) 第四の一のアイヌ施策推進地域計画の第四の七の認定に関する基本的な事項
(5) (1)から(4)までに掲げるもののほか、アイヌ施策の推進のために必要な事項
3 内閣総理大臣は、アイヌ政策推進本部が作成した基本方針の案について閣議の決定を求めなければならないものとすること。(第七条関係)

二 都道府県方針
1 都道府県知事は、基本方針に基づき、当該都道府県の区域内におけるアイヌ施策を推進するための方針(以下「都道府県方針」という。)を定めるよう努めるものとすること。
2 都道府県方針には、おおむね次に掲げる事項を定めるものとすること。
(1) アイヌ施策の目標に関する事項
(2) 当該都道府県が実施すべきアイヌ施策に関する方針
(3) (1) 及び(2)に掲げるもののほか、アイヌ施策の推進のために必要な事項
(第八条関係)

第三 民族共生象徴空間構成施設の管理に関する措置
一 国土交通大臣及び文部科学大臣は、第六の一による指定をしたときは、民族共生象徴空間構成施設の管理を当該指定を受けた者(二において「指定法人」という。)に委託するものとすること。
二 一により管理の委託を受けた指定法人は、当該委託を受けて行う民族共生象徴空間構成施設の管理に要する費用に充てるために、民族共生象徴空間構成施設につき入場料その他の料金を徴収することができるものとすること。
(第九条関係)

第四 アイヌ施策推進地域計画の認定等
一 市町村は、単独で又は共同して、基本方針に基づき(当該市町村を包括する都道府県の知事が都道府県方針を定めているときは、基本方針に基づくとともに、当該都道府県方針を勘案して)、当該市町村の区域内におけるアイヌ施策を推進するための計画(以下「アイヌ施策推進地域計画」という。)を作成し、内閣総理大臣の認定を申請することができるものとすること。
二 アイヌ施策推進地域計画には、次に掲げる事項を記載するものとすること。
 1 アイヌ施策推進地域計画の目標
 2 アイヌ施策の推進に必要な次に掲げる事業に関する事項
  (1) アイヌ文化の保存又は継承に資する事業
  (2) アイヌの伝統等に関する理解の促進に資する事業
  (3) 観光の振興その他の産業の振興に資する事業
  (4) 地域内若しくは地域間の交流又は国際交流の促進に資する事業
 3 計画期間
三 市町村は、アイヌ施策推進地域計画を作成しようとするときは、これに記載しようとする二2の事業を実施する者の意見を聴かなければならないものとすること。
四 二2((4)を除く。)の事業に関する事項には、アイヌにおいて継承されてきた儀式の実施その他のアイヌ文化の振興等に利用するための林産物を国有林野において採取する事業に関する事項を記載することができるものとすること。
五 四に定めるもののほか、二2((4)を除く。)の事業に関する事項には、アイヌにおいて継承されてきた儀式若しくは漁法(以下「儀式等」という。)の保存若しくは継承又は儀式等に関する知識の普及及び啓発に利用するためのさけを内水面において採捕する事業(以下「内水面さけ採捕事業」という。)に関する事項を記載することができるものとすること。
六 四及び五に定めるもののほか、二2((3)に係る部分に限る。)の事業に関する事項には、当該市町村における地域の名称又はその略称を含む商標の使用をし、又は使用をすると見込まれる商品又は役務の需要の開拓を行う事業(以下「商品等需要開拓事業」という。)に関する事項を記載することができるものとすること。
七 内閣総理大臣は、一による認定の申請があった場合において、アイヌ施策推進地域計画が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、その認定をするものとすること。
 1 基本方針に適合するものであること。
 2 当該アイヌ施策推進地域計画の実施が当該地域におけるアイヌ施策の推進に相当程度寄与するものであると認められること。
 3 円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。
(第十条関係)

第五 認定アイヌ施策推進地域計画に基づく事業に対する特別の措置
一 交付金の交付等
国は、認定市町村に対し、認定アイヌ施策推進地域計画に基づく事業(第四の二2のものに限る。)の実施に要する経費に充てるため、予算の範囲内で、交付金を交付することができるものとすること。(第十五条関係)
二 国有林野における共用林野の設定
 1 農林水産大臣は、国有林野の経営と認定市町村の住民の利用とを調整することが土地利用の高度化を図るため必要であると認めるときは、契約により、当該認定市町村の住民又は当該認定市町村内の一定の区域に住所を有する者に対し、これらの者が第四の四により記載された事項に係る国有林野をアイヌにおいて継承されてきた儀式の実施その他のアイヌ文化の振興等に利用するための林産物の採取に共同して使用する権利を取得させることができるものとすること。
 2 1の契約は、国有林野の管理経営に関する法律第十八条第三項の共用林野契約とみなして、同法第五章(同条第一項及び第二項を除く。)の規定を適用するものとすること。(第十六条関係)
三 漁業法及び水産資源保護法による許可についての配慮
農林水産大臣又は都道府県知事は、認定アイヌ施策推進地域計画に記載された内水面さけ採捕事業の実施のため漁業法第六十五条第一項若しくは第二項又は水産資源保護法第四条第一項若しくは第二項の規定に基づく農林水産省令又は都道府県の規則の規定による許可が必要とされる場合において、当該許可を求められたときは、当該内水面さけ採捕事業が円滑に実施されるよう適切な配慮をするものとすること。(第十七条関係)
四 商標法の特例
特許庁長官は、認定アイヌ施策推進地域計画に記載された商品等需要開拓事業に係る商品又は役務に係る地域団体商標の商標登録については、登録料又は商標登録出願の手数料を軽減し、又は免除することができるものとすること。(第十八条関係)
五 地方債についての配慮
認定市町村が認定アイヌ施策推進地域計画に基づいて行う事業に要する経費に充てるため起こす地方債については、国は、当該認定市町村の財政状況が許す限り起債ができるよう、及び資金事情が許す限り財政融資資金をもって引き受けるよう特別の配慮をするものとすること。(第十九条関係)

第六 指定法人
一 指定等
国土交通大臣及び文部科学大臣は、アイヌ文化の振興等を目的とする一般社団法人又は一般財団法人であって、二の業務を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、全国を通じて一に限り、二の業務を行う者として指定することができるものとすること。(第二十条関係)
二 業務
指定法人は、次に掲げる業務を行うものとすること。
1 第三の一による委託を受けて民族共生象徴空間構成施設の管理を行うこと。
2 アイヌ文化を継承する者の育成その他のアイヌ文化の振興に関する業務を行うこと。
3 アイヌの伝統等に関する広報活動その他のアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発を行うこと。
4 アイヌ文化の振興等に資する調査研究を行うこと。
5 アイヌ文化の振興、アイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発又はアイヌ文化の振興等に資する調査研究を行う者に対して、助言、助成その他の援助を行うこと。
6 1から5までに掲げるもののほか、アイヌ文化の振興等を図るために必要な業務を行うこと。(第二十一条関係)
三 民族共生象徴空間構成施設管理業務規程
指定法人は、二1に掲げる業務(以下「民族共生象徴空間構成施設管理業務」という。)に関する規程(以下「民族共生象徴空間構成施設管理業務規程」という。)を定め、国土交通大臣及び文部科学大臣の認可を受けなければならないものとすること。(第二十二条関係)
四 事業計画等
指定法人は、毎事業年度、事業計画書及び収支予算書を作成し、当該事業年度の開始前に、国土交通大臣及び文部科学大臣の認可を受けなければならないものとすること。(第二十三条関係)
五 区分経理指定法人は、民族共生象徴空間構成施設管理業務に関する経理と民族共生象徴空間構成施設管理業務以外の業務に関する経理とを区分して整理しなければならないものとすること。(第二十四条関係)
六 国派遣職員に係る特例
1 国家公務員法第百六条の二第三項の退職手当通算法人には、指定法人を含むものとすること。
2 国派遣職員は、国家公務員退職手当法第七条の二及び第二十条第三項の規定の適用については、同法第七条の二第一項の公庫等職員とみなすものとすること。
3 指定法人又は国派遣職員は、国家公務員共済組合法第百二十四条の二の規定の適用については、それぞれ同条第一項の公庫等又は公庫等職員とみなすものとすること。(第二十五条関係)
七 職員の派遣等についての配慮
六のほか、国は、指定法人が行う二の業務の適正かつ確実な遂行を図るため必要があると認めるときは、職員の派遣その他の適当と認める人的援助について必要な配慮を加えるよう努めるものとすること。(第二十六条関係)
八 役員の選任及び解任
1 指定法人の二の業務に従事する役員の選任及び解任は、国土交通大臣及び文部科学大臣の認可を受けなければ、その効力を生じないものとすること。
2 国土交通大臣及び文部科学大臣は、指定法人の二の業務に従事する役員が、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分若しくは民族共生象徴空間構成施設管理業務規程に違反する行為をしたとき等は、指定法人に対し、その役員を解任すべきことを命ずることができるものとすること。(第二十七条関係)
九 指定の取消し等
国土交通大臣及び文部科学大臣は、指定法人がこの法律に違反したとき等において、一による指定を取り消すことができるものとすること。(第三十条関係)

第七 アイヌ政策推進本部
一 設置
アイヌ施策を総合的かつ効果的に推進するため、内閣に、アイヌ政策推進本部(以下「本部」という。)を置くものとすること。(第三十二条関係)
二 所掌事務
本部は、次に掲げる事務をつかさどるものとすること。
1 基本方針の案の作成に関すること。
2 基本方針の実施を推進すること。
3 アイヌ施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。(第三十三条関係)
三 組織等
本部は、アイヌ政策推進本部長(内閣官房長官をもって充てる。)、アイヌ政策推進副本部長(国務大臣をもって充てる。)及びアイヌ政策推進本部員(法務大臣、外務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣及び環境大臣(このうち副本部長に充てられたものを除く。)並びに内閣総理大臣が指定する国務大臣)をもって組織するものとすること。(第三十四条から第三十七条まで関係)

第八 雑則
一 権限の委任について、所要の規定を設けるものとすること。(第四十二条関係)
二 命令への委任について、所要の規定を設けるものとすること。(第四十三条関係)
三 罰則について、所要の規定を設けるものとすること。(第四十四条及び第四十五条関係)

第九 その他
一 この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。ただし、附則第四条及び第八条の規定は、公布の日から施行するものとすること。(附則第一条関係)
二 アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律は、廃止するものとすること。(附則第二条関係)
三 所要の経過措置を設けるものとすること。(附則第三条、第四条及び第八条関係)
四 関係法律について所要の改正を行うものとすること。(附則第五条から第七条まで関係)
五 その他所要の規定の整備を行うものとすること。